『SALON TIMES(サロンタイムズ)』という通信媒体がある。SPCNのキャンペーンにエントリーしている全国の美容院の店舗実績を集計して週次でランキングを発表するファクスニュースだ。このランキングでつねに上位に位置するサロンがある。新規客数は月間300人を誇る。新規再来率が上昇すれば“鬼に金棒”、“行列のできるサロン”になる? アンケートを導入し顧客思考を高めることで課題を克服中。改善活動に着手して1年2カ月でリピート客数をほぼ倍増。3月の総客数は1000名を突破した。
通信媒体『サロンタイムズ』で今回、発表されているランキングはお客さまに対するアンケートの「取得率」と店への満足指標「総合満足度感動比率」からなる〈CSミシュラン〉、〈紹介新規客数〉〈カウンセリング感動比率〉〈店販売上〉〈店販購入客比率〉の5項目。設定項目はキャンペーンのテーマによって変わるが、各項目の実績を競い合えるように、エントリーしているサロンのもとに上位サロンの順位と実績、それに前週比のアップダウンが届く。
自店舗の順位が変動する様子は、まるでプロ野球ペナントレースの順位争いのようでもある。つねに上位に位置し他を寄せつけない圧倒的強さをみせるサロンもあれば、めまぐるしく順位を入れ替えるサロンもある。ダントツ1位をキープするサロンには、その強さにほれぼれするし、注目しているサロンの成績が上下して順位が入れ替われば一喜一憂することもある。
この『サロンタイムズ』がおもしろいのは、たとえばつねにほとんどの項目でランクインするような突出した強豪が存在し、その実力が伝わってくることだ。また強豪にピタリと寄り添ってデットヒートを繰り広げるサロンがあるのも見応えのひとつ。たとえば理美容教育出版の『サロンオーナー』7月号でも取材を受けた横浜・元町のエクセレントサロン、「be impress」(弊誌2006年10月号掲載)に肉薄するサロンがある。4月以降、このランキングでいつも上位にランクインし首位争いをしてきたサロンのひとつがエントリーネーム、「all of the good」。「be impress」と並び、とくに「店販売上ランキング」「店販購入客比率ランキング」で強さをみせてきた。
「all of the good」を訪ねた。東京・池袋の西口駅前、雑居ビルの2階。店名はアートノイズ。営業中のスタッフに会い思わずこぶしで手のひらを叩いた。忙しく働いていたのは同じくSPCNが開催するサロン勉強会「ベンチマーキング・パーティ(BMP)」東京会場でしばしばお会いする人たちだった。他店舗を熱心にベンチマークするサロンだ。
アートノイズは、昨年2006年は店のソフト面の強化が課題でBMPに参加し続けた。今年はハード面の強化期間と位置づけ機材導入やホームページの情報整備に力を入れている。ホームページから月間300人もの新規客を集客するノウハウをもつサロンでもある。
ソフトを強化したうえでハード面の整備に力を注ぐ結果、順調な成長を続けている。自慢できる数値を問うと、迷うことなく「売り上げ」と返ってくる。店は17坪に席数は6。スタイリスト5.5名とアシスタント3名で07年3月は900万円を突破した。06年は7月と12月の2度、800万円台をクリアし、平均月商は737万円、昨年対比は127%だった。
スタイリストひとりあたり売上が160万円を超える強さの背景には、課題としていたリピート客数の大幅な改善があった。06年1月時点のリピート客数は353人だった。総売上は583万円。その後リピート客数は400人台、500人台と次第に増え、12月には647人に達した。07年もその勢いを継続中。リピート客数は増加し続け3月、目標を上回り月間リピート客数はついに700人を超えた。
オーナーの石山昭一さんはいま、「社長業に専念できる時間が増えた」と喜ぶ。サロンワークをする傍ら、以前は経営者の仕事に費やす時間は2割程度だった。それがいま、「5割に増やすことができた」。
競合店がひしめく大都市にあって好調さを生み出しているのは「スタッフの自立」、9名いるスタッフの成長にほかならない。「スタッフの意識改革が進んでいる結果だ」と石山さんは見ている。石山さんが同時に挙げるのが「理念の浸透」。「向かう方向がひとつになったので、あとは突き進むだけ」と組織はいま、好ましい状態にある。
「自立したスタッフ」と「理念の浸透」。言い換えれば「考える組織」と「顧客志向」。だが、じつは快走を続ける同店も05年春ごろは業績に伸び悩んでいた。核となっていた優秀なスタッフの退社があり同店の成長にブレーキがかかったのだ。約1年、石山さんはその原因がなにであるのかを考え続けてきた。1年間、悩んだ結果わかったのは、新しいスタッフは「なにも考えていない」という事実だった。石山さんにとって「まさかの大発見」というほど驚愕の大事件だったという。「聞いたことがある」が「知っている(つもり)」になり、「知っている(つもり)」はいつのまにか「わかっている(つもり)」になっていた。心からの理解につながっていない以上、「なにを言ってもわからない」。
そこで石山さんはスタッフに「なぜ?」「どうして?」を繰り返し、1つひとつの行為・行動のわけを深堀していった。ときにはレポート提出も宿題にして行動の一つひとつの理由を明らかにしていった。石山さんは言う。「抽象的だから行動できない。具体的でないから思考が深まらない。だから動かない」。
この作業は〈あなたにとってよいものだけを〉を店舗理念にする同店にとって、お客さまの立場に立った顧客思考を深めるプロセスでもあった。
いま、同店では毎朝の朝礼を10分早めて実施している。これは「もっと濃い朝礼にしたいので早めてよいか」とスタッフから申し出があったためだ。「もっと(お客さまを)喜ばせる結果をつくれる」とスタッフが相談し決めてくれた。終礼もミーティングに改め、アンケート結果を徹底的に振り返っている。そして日々、自分たちの行動指針を導き出している。
オーナーから「2店舗目」という言葉も出るアートノイズ。だが、「フォーラムでグランプリを取ってから」と封印している。
月刊SPCN 2007年7月号掲載
リンク・イノベーション副社長 大薮 貴之