スタッフを前向きに変えたのは目標だった。目標を示すだけで伸び代のあるスタッフはいくらでも成長をする、きっかけさえあればスタッフは生き生きとする。そのきっかけは共同作業だった。『月刊アクシス』というサロン情報発信媒体づくりが、そのシンボルとしてあるアクシス。共同作業を通じてオーナーが求めていた自主性を引き出すこととなり、個人が成長をはじめた。ここは北海道。倉本聰の『北の国から』のような家族的なサロンの成長物語があった。
コンサルティングセオリーからいうならば、優等生かそうでないかといえば、残念ながら後者のサロンさんになるのだろうか。CSマネジメントはやってはみたが持続しない。途中で挫折している。キャンペーンにはエントリーしない。コンテストにも参加しない。経営改善のための外部資源をまるで活用しない――。
でもオーナーは現状打破の必要性を強く感じていた。「いまのままではスタッフの成長も、サロンの発展もない。スタッフを幸せにすることも、お客さまに喜びや感動を与えることもできない。このままではいけない」と健全ともいえる危機感をもっていた。そしてオーナーの望んでいるのはまさにお客さまに感動を与えられる経営。スタッフ全員で店をつくり上げる全員参画型経営だった。一見、経営方針と現実が一致しないかのようにもみえるアクシスは、北海道・札幌で人気の高い高級住宅街、円山公園近くにあった。
とはいうもののアクシスは、2005年3月からきっちり成果を出している。過去の伸び悩み、かつての横ばい状態ときっぱりと決別した業績を残している。独立して15年。長らくは「ずっと赤字経営」だった。実際のところ損益分岐点を越えるのに苦労してきたサロンだった。
しかし05年を境に損益分岐点を越えるのは当たり前のサロンに様変わりしている。かつて「300万円は別世界」だったサロン。それが現状07年は1-3月の平均月商は実質4名で300万円ペースをクリアして推移。昨年06年度の平均月商は268万円だった。05年と前々年の04年はといえば230万円に満たなかったサロンである。06年12月は356万円。07年3月も360万円と300万円超える勢いをつけはじめている。
いったい、なにがあったのか。どんな活動をしたのだろう。ズバリ、オーナーに質問。するとその応えは「実感はない。営業スタイルを変えたわけでも、特別なことをしたわけでもない。ただ……」とひと呼吸おいて、「本来あるべき姿をやっているのかな――」と返ってきた。その「本来あるべき姿」とはどんな姿なのか。
質問を進めていくと実感のないオーナーのなかにも答えが炙り出されていく。質問の1つひとつに、丁寧に言葉を探すように応じる吉野さん。言葉の断片に成功要因が浮かび上がってきた。まず謙虚な危機感があった。「このままではいけないのだ」という姿勢が強く伝わってきた。そのうえで「目標」を意識するようになった。「僕も含め、全員がわかるようにした」。目標を浸透できたことがもっとも大きい成功要因のひとつだった。これまで「目標はなかった。あったのかもしれないけれど、スタッフに伝えていなかった」。以前の吉野流経営に「目標」の重要性に対する認識は甘かった。でも「必要なのは目標なのだ」と吉野さんは気づいた。「スタッフがいて、よりよいサロン経営をする以上、店の発展は不可欠で利益の出せる営業をしないといけない」ということを強く意識するようになったのが第1の変化だった。
これまでは技術ひと筋タイプだった。「技術があれば数字は後からついてくるもの」という「甘い考えで」やってきたと語る。そんな職人気質のオーナーがいま、「目標とは即ち共通言語」という。目標は、「オーナーとスタッフの共通言語」だと言い切る。店をいっしょにつくっていくのに、その共通言語をもたなかったかつてのアクシス。共通言語である目標がはっきりしてはじめて「まだ足りないね」とわかるし、「なにが足りないのだろう」と改善を求められる。そこで「こうしよう」「ああしよう」とアイデアを出しあえるようになった。オーナーが目標を明確に示すことにより、まず基礎的なマネジメントサイクルが回転しはじめたのだ。
アクシスの業績が変化しはじめたのは05年だった。以降、好転をはじめたアクシスに、じつは業績の変化に寄り添うように、ときを同じくして誕生したものがある。05年5月、『月刊アクシス』創刊。プロ顔負けの完成度を誇る、アクシスから来店客に向けての情報発信媒体だ。店内閲覧専用だが、その企画力、デザインセンスは圧巻。店内に揃える市販の雑誌と肩を並べる出来栄えにまず驚く。制作はスタッフがそれぞれの得意分野を活かし役割を分担。それを店長の安井さんが編集長役を務め完成させている。安井さんという名編集者をリーダーとしたスタッフ全員の共同作業がアクシスに加わったのだ。文章の上手い人がコラムを書き、ゲームに夢中な人がそれを紹介する。この月刊誌をつくり上げる共同作業を通じて、「ひとつになった」と吉野さんは見ている。これまで「僕がなんでもやり過ぎた。ひとりで決め過ぎた」(吉野さん)。このアクシスの運営スタイルが変化するきっかけを、ここに得ている。スタッフから自分の言葉で積極的な意見が出るようになったのは、じつは月刊アクシス誕生以来の23カ月の変化だった。
目標と自主性。「実感がない」とはいうものの、アクシスを変えていたものは個人と組織の成長にとって不可欠な立派な2つの原動力だった。
月刊SPCN 2007年6月号掲載
リンク・イノベーション副社長 大薮 貴之