強い思いと意思があればかならず変わる。どんなどん底にあっても数カ月で組織は生まれ変わることができる。長崎のキャムグループの3店舗が、これを証明してみせた。当然、大変な苦労と代償はあった。犠牲になった家族さえあった。店がひとつになるのは容易いことではなかった。しかし一体となった組織は強い。目標達成という成果を連発しはじめた。
一度に5名ものスタッフが同時期に辞める。そしてスタッフ数が半数になる――。こんな危機的な事態に、長崎市の郊外、時津町で3店舗経営するキャムが直面したのは2006年5月のことだった。
キャムには3店舗で17名のスタッフがいた。しかし5月、7人が立て続けにほぼ同時期に去っていった。残ったスタッフは10名。考えられる原因は2つあった。ひとつはオーナーが同年2月、外部のコンサルタントを導入したことにより仕事量が増え、きつくなったこと。そしてもうひとつ、「店に指針がなかったこと」とオーナーの城山寛一さんはいう。
「お客さまが来店したら作業のようにこなす、その日暮のサロンだった。店に理念がなければ目標もない。あってもそれを伝えることはしていなかった。典型的な職人気質。『仕事は見て盗んで覚えろ』というタイプ。経営をしていなかったのですね」。当時、「どこか1店舗を閉めないといけないのではないか」とスタッフのなかには心配する姿もあった。想定外のスタッフの大量流出に、このまま3店舗を維持できるのかという岐路に立っていた。
城山さんは当時の心境をさらにこう振り返った。「オーナーを25年やってきて、どん底に突き落とされたような瞬間だった。これまで自分がやってきたことのすべて覆されたような、信じてやってきたことが否定されたような気がした。まるで自分が自分でなくなったようだった」(城山さん)。
ショックを受けた城山さんはこのとき、スタッフの大切さを痛いほどかみ締めていた。「どこかでないがしろにしていた。だから若いスタッフが将来に不安を抱き、失望して、愛想つかして辞めていったのでしょう」(城山さん)。城山さんはどん底で人の大切さを思い知らされていた。
自身の変革を決意したオーナーに、さらに味方する出来事もあった。数カ月後の夏にあったサロン経営の成果発表会、『サロン・パートナーズ・フォーラム』を全員で大阪へ見に行ったときのことだ。
同フォーラムではスタッフたちと同世代が活躍する姿があった。そこには同じ地元、長崎でぐんぐんと成長を遂げるサロンの姿もあった。キャムのスタッフはここで大きな刺激を受けることになる。「自分たちも負けていられない!」と全員が食い入るように成功サロンの活動報告を目の当たりにしたのだった。
大阪から長崎に戻り、長崎空港から連絡船で波止場に着いて解散しかけたとき、9名を呼び止めるスタッフがいた。それは城山さんが右腕と見込んでいるナンバーツーだった。彼は10名で円陣をつくり、全員を大阪へ連れて行ってくれたことに代表してオーナーへ感謝の言葉を述べたあと、「みんなでがんばろう」と結束を呼びかけた。このとき城山さんのなかで組織が音を立てて一体となる瞬間だった。「ぐっときた。うれしかった」と城山さんは目を細める。
ここからのキャムの取り組みはずば抜けていた。たとえば毎月1回開催される経営講習会「ベンチマークパーティ」には福岡まで片道2時間をかけて全員で参加している。優れたサロンから成功要因を学び、徹底して自サロンに採り入れていった。カウンセリング、接客においては店の財産となる統一マニュアルをつくり上げたが、これも半端ではなかった。「命をかけてやった」と言えるほどの完成度でつくり上げた。オーナーは「みんなが5をするなら自分は10やるつもりで」率先垂範を実行した。城山さんは行動を変えることを決心した日から毎日、パソコンで『城山コラム』を3店舗に送り続けた。1通のメールを送るのに2時間。パソコンとの格闘でもあったが、これがスタッフとの距離を縮め、スタッフの拠り所にもなっていった。城山さんが「10人の侍」と呼ぶ個性は揃いのメンバーはすべてをやり遂げ、そこにはいっさいの妥協はなかった。
しかしその取り組みの一方で、「仕事と家庭の両立」という深刻な問題もあった。帰宅の遅くなった主婦に、じつは離婚の危機さえもあったのだ。しかし「キャムが好きだから」と家族を説得して仕事を続けている。
そんな葛藤を乗り越えることができたのは、限界を超えてがんばる組織のなかに、助け合いの精神や励まし合う風土が同時に生まれていたからだった。「一歩間違えば『こんなサロン辞めた』となるところ、その一歩を間違わなかったのは、みんなが一緒になって同じレベルで同じことを同じようにやってきて絆が深まったから」と離婚の危機まで経験したスタッフは語る。
生まれ変わったキャム。7名もスタッフが減れば売り上げを落とすのが普通である。ところがそれにも関わらず、落とすどころか逆に売り上げを上げてしまった。7名減体制で営業を続けているにも関わらず失客を最低限に抑えることができ、なんと9月以降は6カ月連続して(1店だけ11月未達成を除く)3店同時に売上目標を達成。昨年対比売り上げ伸長率もクリアし続けているのである。
まるでウエイトが減ってそこからつくり上げたような筋肉体質の組織。少数精鋭の戦う組織ができあがっていた。鍛え上げられた組織でいま、キャムは快走をはじめた。
月刊SPCN 2007年5月号掲載
リンク・イノベーション副社長 大薮 貴之